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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

題詠blog2007

001: 始
羽ばたけば宙を翔べると気づきたる始祖鳥たちの歓喜・驚愕

002: 晴
久々に晴れたる朝(あした)遠山の雪がうつすら紅を帯びたり

003: 屋根
屋根を打つ夜更けの雨の音を聴く 桜の花も濡れてゐるべし

004: 限
「もうこれが限界だよ」の悲鳴なり今日パソコンが動かないのは

005: しあはせ
しあはせに気づかぬままに過ごしたり 我にもありし子育ての日々

006: 使
修理せず戸棚の奥に仕舞ひ置く使命終へたるノートパソコン

007: スプーン
時かけて銀のスプーン磨くうち心の波が静まりてゆく

008: 種
歌の種二つ三つと拾ひたり桜並木を通り抜け来て

009: 週末 
週末に朝の散歩をする慣ひ 職を退きてもあまり変はらず

010: 指
我が指を力を込めて握りくる生後三月(みつき)の小さき右手が

011: すきま
あなたとの間にかすか吹き初めるすきま風なり スッと冷たし

012: 赤
赤き色外側にして虹の弧が春まだ浅き空を彩る

013: スポーツ
スポーツとニュースだけしか興味なき日本の男 我の夫も

014: 温
凍て土を分けて芽を出す水仙の葉先に温き光集まる

015: 一緒
一緒なら何でも出来ると思ひゐし恋人時代は遥かになりぬ

016: 笛
「笛を吹く少年」の絵の少年が吹くのはきっとバッハ組曲

017: 玉ねぎ
献立の決まらぬままにスーパーでとりあえず買ふ玉ねぎキャベツ

018: 酸
桜咲く丘に登りて出来立てのおいしい酸素をいつぱいに吸ふ

019: 男
ネクタイを締めてスーツを着て立てばわが子なれども男は男

020: メトロ
いつよりかメトロと呼ばれて地下鉄が名前よりまずおすましとなる

021: 競
競技場満員にしてサッカーの試合開始のホイッスル鳴る

022: 記号
無限大の記号を高き空に描(か)き白頭鷲が旋回をする

023: 誰
本当の悩みは誰にも言へなくて天気の話をして別れたり

024:バランス 
微妙なる夫婦のバランスふと崩れ今日はどちらも少し不機嫌

025: 化
「原因は老化ならむ」と仮定して立証すれば全て成り立つ

026:地図
幼稚園のお泊り保育の翌朝に「地図」の描かれし布団3枚

027:給
人参と油揚げ入り混ぜ飯が月給前のピンチ献立

028:カーテン
そよ風がレースのカーテン揺らすとき午睡のをさな深く息つく

029:国
日本では国産車なるカローラが「外車」となりてわが車庫にあり

030:いたずら
予告なく訪ねくれたる君の目にいたづらつ子のやうな輝き

031:雪
昨夜(よべ)の雪少し凍りて陽に光る南天の実の赤をのぞかせ

032:ニュース
スポーツかニュースか天気予報なり夫がいつでもつけておくのは

033:太陽
太陽が二つに見えると言ひし友 あれは病気の前兆だつた

034:配
心配をする役割を引き継ぎぬ息子の妻になりたる人に

035:昭和
パソコン通信初めたばかりで便利なりき昭和時代の末のことだが

036:湯
湯煙りが下水溝より立ちのぼり温泉町は冬も暖か

037:片思い
短歌への片思ひなり私が離れられずに今日も詠むのは

038:穴
たまに行くすし屋で父が先づ頼む少し甘めの穴子のにぎり

039:理想
理想にはほど遠けれどこれもよし 六十六歳食べて笑ひて

040:ボタン
胸元のボタンを一つはずしたり ゆつたりかまへ長期戦なり

041:障
障害が無ければ愛が燃えないと生意気を言ふ婚七年目

042:海
海面をバシャーンバシャーンと尾で叩き鯨の群れが船と行き交ふ

043:ためいき
みどり児がミルクをたつぷり飲み終はりふーっと深きためいきをつく

044:寺
豪徳寺、世田谷城跡、馬事公苑 小学時代の我の遊び場

045:トマト
キッチンに立つ日暮れ時まな板に載せたる冬のトマトが光る

046:階段
階段を手をつながずに下りられて二歳児今日は得意満面

047:没
島々も海面も船も赤く染めひと日の終りを没り陽輝く

048:毛糸
初めての女孫のために買ひ求む淡きピンクの極細毛糸

049:約
約束は常に修正を伴へり 携帯電話を気軽にかけて

050:仮面
寂しさは仮面の下に押し込みて任地に向かふ子を送りだす

051:宙
支柱より高くのびたる朝顔の蔓がひょろりと宙をつかめり

052:あこがれ
あこがれはあえかに紅き合歓の花ほわりと灯り天に向きたり

053:爪
ふと見れば爪の形も我に似て長女はすでに中年となる

054:電車
郊外へ向かふ電車の昼下がりモンシロチョウが迷ひ込みたり

055:労
労作が傑作だとは限らない 短歌は時に裏切り者で

056:タオル
花柄のタオルのハンカチ二枚組み小学生の孫より貰ふ

057:空気
疲れきりやつと我が家に辿りつく空気の抜けたタイヤのやうに

058:金
霧白く立ち込める朝教会のミサの合図の鐘がくぐもる

059:ひらがな
ひらがなの「ひ」の字の作る壷のなかため息ひとつ閉じ込めておく

060:キス
右のドアへこませて子が帰り来る「隣の車とキスしただけさ」

061:論
論点を少し違へて話そうか 君の立場は解るけれども

062:乾杯
「乾杯!」と「カンパーイ!」の声交はしつつグラスの水を孫と飲み干す

063:浜
浜木綿を三浦岬に見たる日の梅雨晴れの空高く澄みゐき

064:ピアノ
もう誰も弾かぬピアノの上に置く家族揃ひし頃の写真を

065:大阪
「よい人」になる道を捨て淀君は大阪城に果てて死にたり

066:切
中心角30度づつに切り分けるまだ暖かきアップルパイを

067:夕立
夕立が宙を切りつつシューシューと十階の窓の前を落ち行く

068:杉
悪者にされつつ杉が飛ばしゐる花粉は杉の罪にあらずも

069:卒業
濡れ落葉を卒業したる夫なり 時に私を邪魔さうにする

070:神
神様のご機嫌やうやく直りしか東の空に夕方の虹

071:鉄
鉄板に肉を焼きつつ乾杯す もうすぐカルビが食べごろになる

072:リモコン
夫よりリモコン操作をされるごとケイタイ電話で用事が届く

073:像
「あの人と結婚すれば今頃は・・」わが想像に終はりはあらず

074:英語
英語では言へぬ心のたゆたひがほんの少しの沈黙となる

075:鳥
人間が鳥なりし日の名残なる肩甲骨が大空を恋ふ


076:まぶた
ママに寄り何とはなしに愚図りをりまぶたが少し重き幼な児

077:写真
写真には写せぬ甘き香を放ち月下美人が花開きたり

078:経
「般若心経」子供の頃に教はりて今でも口を突いて出で来る

079:塔
「エッフェル塔」を「アイフルタワー」と言はれても英語式ではその気になれぬ

080:富士
成田へと近づく機窓にまず見える雲の上なる富士の頂

081:露
露に濡れ白く輝く芝草に靴あといくつ緑に残る

082:サイレン
サイレンを高く鳴らして通りすぐ救急車二台まつしぐらなり

083:筒
竹筒に水引草を活けこみて茶室に秋の野の風を呼ぶ

084:退屈
療養の退屈しのぎに始めしが短歌(うた)との縁と母は言ひゐき

085:きざし
回復のきざしの見えて今朝母はお粥ひと椀食べてくれたり

086:石
磨かれて昔の光を呼び戻す化石の中に籠れる貝が

087:テープ
志ん生の落語のテープを夫と聴き昨日と同じところで笑ふ

088:暗
まだ明けぬ暗きベランダひつそりと紫色の朝顔開く

089:こころ
その「こころ」鎧ふ技術も身につけて子らがそれぞれ飛び立ちてゆく

090:質問
「これは何?」「それはどうして?」三歳の坊やこのごろ質問ばかり

091:命
「命などいくつあっても足りない」と働きざかりの息子が笑ふ

092:ホテル
ラブホテルをつひぞ見かけぬカナダなり 日本の友は信じくれぬが

093:祝
「おめでたう」祝ひの言葉かけながらひそかに兆す友への妬心

094:社会
お茶くみと灰皿洗ひの日々なりき 社会人にはなりたるものの

095:裏
勝ち試合を一瞬にして覆す九回裏の大ホームラン

096:模様
空模様怪しくなりて海よりの風がポプラの葉を鳴らしゆく

097:話
日本とのスカイプ電話を切りしとき俄かに広し太平洋は

098:ベッド
夜の闇に鈴の音のして黒猫が我のベッドに飛び乗りて来る

099:茶
朝起きてすぐ飲む熱き日本茶に頭の中の霧が晴れゆく

100: 終
終点は明日かも知れぬ人生に今日は明るき紅葉を見る



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